《ひと》は、用がなくて神田くんだりから出てくるもんですかね」
これが初対面の挨拶だ。見ると、黒襟の半纏をズッこけそうに引ッかけて、やけの洗《あら》い髪《がみ》、足の指にはチョッピリ鳳仙花《ほうせんか》の紅《べに》をさしていようという、チャキチャキの下町ッ児、大変者《たいへんもの》の風格だから、園絵は思わず用心をして、
「御用がおありでしたらおはいりなすって下さいまし」
「焦《じ》れッたいねえ。お前さんに出て来て貰いたい用なんでございます」知らずのお絃は、どこへ出てもこの調子だ。せっかく喬之助に会わしてやろうと、茨右近と一緒に駕籠まではずんで迎いに来た。その当の相手が、何だかじぶんを疑って二の足を踏んでるようすだから癪《しゃく》にさわってたまらない。持前の気性でポンポンやり出す。「あたしゃ知らずのお絃というやくざ[#「やくざ」に傍点]女《もの》で、まともの口をきくことなんか、名前のとおりにまったく知らずでございますのさ。オヤ、はばかりさま」
それじゃア何のことはない。まるで喧嘩を売りに来たようなものだから、いまチョイと湯殿を覗いて来て、もう、そこの横町に待たしてある駕籠の中に帰ってい
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