かけて転《まろ》ぶがごとく、その、たったいま喬さまのお顔の見えた窓の下へ来てみる――と、人影もない。
 おや!……と、見廻した。ここに立って覗《のぞ》いていなすったのだが、どこへいらしったのだろう? ハテ、無いものをあると見たのかしら? 兇変《きょうへん》があると、心が飛んで来て姿にあらわれるという。もしや……エエ縁起でもない! 自ら問いみずから打ち消して、園絵は呆然と立ちつくしている。裏木戸近くの風呂場の外だ。生《お》いしげる笹の葉から宵《よい》やみが立ち昇って、山の手の逢魔《おうま》ヶ|刻《どき》、森閑としている中に、夕餉《ゆうげ》の支度に忠助が台所で皿小鉢をうごかす音――いつまで立っていても、いない喬さまが出てくるわけはない。
 帰りましょう帰りましょう……引っ返そうとした。と、声がした。
「アノ、ちょっと御新《ごしん》さん――」
 女の声だ。ふり向く。裏木戸《うらきど》のそとに女のすがたがある。しきりに手招きしているのだ。その手招きに吸《す》い寄せられるように、園絵は二、三歩、そっちへよろめいた。
「どなた――どなたでございます。何ぞ御用でございますか」
「ホホホホ厭だよこの女
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