込んで来いッ!」
その、来いッ! が終った秒間《びょうかん》、フッ! 喬之助の吹く息と倶《とも》に[#「倶《とも》に」は底本では「偖《とも》に」]、落ちた――漆黒《しっこく》の闇黒《やみ》が室内に。
同時、ドサドサッと畳を蹴《け》る音。白い線が二、三度上下に靡《なび》いて、バサッ! ガアッ!――と軋《きし》んだのは、骨を断った響《ひび》きか。
うわあッ! と直ぐ、あとは、よよ[#「よよ」に傍点]と許りに悲泣《ひきゅう》する小児のような泣き声。
終始、喬之助は、掛声《かけごえ》ひとつ発しなかった。
八
「殿様、殿様――」
はいれと言われてはいりもしない長庵、それかと言って帰るでもない、いわゆる怖いもの見たさというやつ。
今に何かはじまるかなと、ソッと玄関口から首を入れて覗《のぞ》いていると、あちこちで戸締りを調べ歩いてる用人《ようにん》仲間《ちゅうげん》などの物音がするだけ、奥の方はシンと静まり返っているから、長庵、
「何でエ。格別《かくべつ》のこともねえじゃアねえか。面白くもねえ。お命頂戴、只今参上はいいが、一たいいつ来るっていうんだろう?」
ひどいやつが
前へ
次へ
全308ページ中146ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
林 不忘 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング