あったもので、人の危難《きなん》はわが楽しみ、まるで芝居の幕があくのを待つような心もちで、
今にも何か起らねえか――耳をすましている。
その鼻っ先だ。
行燈《あんどん》が一つ、上《あが》り端《ばた》に置いてあるだけで、そこらはうす暗い。その半暗《はんあん》を乱して、パッ、奥の廊下を渡って来た風のような人影がある。さア出た! というんで、往来をめざして逃げ出そうとするところへ、まるで猫のよう、あし音もなく追いついて来た人――というより、物の感じだ。その物が、玄関の前で、うしろから長庵を呼び止めた。
「下郎《げろう》か」
「はい」長庵は、足をとめた。膝《ひざ》ががくついて、駈《か》け出そうにも言うことをきかない。猛犬に踵《かかと》を嗅《か》がれる思い。あれだ。村井長庵、腋《わき》の下に汗をかいて、とにかく歩を控《ひか》えた。が、ふり返るだけの勇気はない。真っ直ぐ向いて、前の暗黒《やみ》へ答えた。「はい、下郎でございます」
「当屋敷の下郎か」
「いいえ、近処の部屋におります渡り者の折助でございます」
「しかとさようか」
真っくらで、おたがいに服装《なり》までは見えないのだ。
「相違ご
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