うも弱った。皆目《かいもく》影を見せんとは、人が悪いよ、貴殿も」おかしくもないのに、笑いを揺《ゆ》すり上げて「人にも聞いて下され、貴殿は御存じあるまいが、拙者は常に貴殿の味方《みかた》でござったよ。一度、かようなことがござった。貴殿の硯《すずり》に水が切れておったのを、これもナ、ほんとのことは、かの近江めが、わざと水を捨てて硯を乾《ほ》しおったのだが、そうして置いて、何と、ひどいやつではござらぬか。貴殿の登城を待ってウンと油を絞《しぼ》って呉れると言いおるから、わしが、見るに見兼て、そっとその硯へ水を注いでおいたのじゃ。するとそれを近江めが見|咎《とが》めてナ、吐《ぬ》かしおったよ。大迫氏、神尾はあんたの親戚《しんせき》にでも当るのかな――親戚《しんせき》、うわッはははは、わしとあんたが親戚、さよう、親戚のようなものでござる。拙者は、神尾うじが大好きなのじゃ――こう答えたらナ、近江のやつ、二|言《ごん》もなく、あのドングリ眼《まなこ》をパチクリさせて黙《だま》りおった。いや、見せたかったよ。貴殿」
床の間《ま》に刀に腰《こし》かけたまま、相変らずニコニコしている喬之助の口から、思い出
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