何でその様な――」
長庵が、珍しく真気に反駁《はんばく》して、
「おやしきへ参って、この貼札《はりふだ》を見、思わず声を揚げたのでございます」
只今参上……と、もう一度読み直した玄蕃、うむ! さてはおのれ!――気がついたのは、今の刀の件だ。これはこうしてはおられぬ。手慣《てな》れたる強刀《ごうとう》、何はともあれ、綱を去って鯉口《こいぐち》押し拡げておかねば――あたふた家の中へ引っ返しかけたが、万一の場合を思ったか、
「仁平《にへい》!」仲間の一人を呼んで、「雉子橋御門《きじばしごもん》、砲筒御蔵前《ほうづつおくらまえ》の浅香慶之助殿の屋敷へ急使じゃ。慶之助殿に、四、五の若党を引きつれ、直ちにおいで下さるよう……一刻を争う場合、大迫がお待ち致しおると申し伝えろ。よいかッ。宙を飛んで行けヨ」
言葉すくなになった。それから、茫然《ぼうぜん》としている一同に、
「風呂場、不浄《ふじょう》、水口、縁先等、いま一度、戸締りを見ろ。掛金《かけがね》、棧《さん》、その他に異常なきやを確めるのだ。それが済んだら、各人、剣を執ってわしの座敷へ集れ、酒の支度をしてナ、今夜は徹宵痛飲《てっしょうつうい
前へ
次へ
全308ページ中137ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
林 不忘 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング