ん》、無礼講に語り且つ呑んで暁方《あけがた》を待とう」
 何だか物騒な下知《げち》だが、呑《の》めると聞いてよろこんだのは家来達だ。それぞれ手分けして、言いつけられた用に散らばって行く。
「長庵、参れ」
 はいりかけた玄蕃が、ふり返って呼んだ。が、長庵はすっかり恐縮していて、
「イヤナニ、こちらで結構でございます」
「馬鹿ッ! そこは戸外《こがい》ではないか」
「はい。外のほうが安全で、ピカリッ抜いたッと来りゃア一|目散《もくさん》。古語《こご》にも申します。君子《くんし》危きに近よらず――」
「何を愚図《ぐず》愚図申しおる」
「殿様、相手は、あの神尾喬之助で――?」
「なあに、彼ごとき――」
 気が急く。刀の始末をせねば――。
「長庵、あとをよく閉めて参れ」
 そのまま、独り家へ上った大迫玄蕃、スタスタと元の座敷へ帰って来て、サラリ、障子を引いて一歩踏み入ったかと思うと、――流石《さすが》は武士、低い声だった。
「ヤヤッ! 誰だッ?……」

      六

 いつの間にどこからはいり込んだのか。
 座敷の床の間に腰かけて、ニタリニタリ笑っている神尾喬之助――。
 肩に継布《つぎ》の
前へ 次へ
全308ページ中138ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
林 不忘 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング