じょう》し、その間は、仕事をしているごとく見せかけて、要領よくブラブラしていさえすれア、大した失態《しったい》のない限り、まずお役御免なんてことはない。徳川の世を万代不易《ばんだいふえき》と信じていたように、まことに悠々閑々《ゆうゆうかんかん》たる時代だったもので――。
「誰か――そこにおるのは」
燭台《しょくだい》の灯影《ほかげ》で、つと大迫玄蕃は眉を寄せた。
おや! と思ったのだ。ミシ!――縁《えん》の廊下の端《はし》で、板が、さながら人の重みで鳴ったような気がしたのである。
から耳?
そうだろう。下僕《げぼく》をはじめ家人らは、先刻《さっき》戸締りを済まして、今はもう銘々《めいめい》の部屋へ退《さが》ったあと。武家屋敷は夜が早い。今ごろ、この玄蕃の座敷の近くを、人の歩くはずはないのだ。
おれはすこし神経質になっているようだ――神経質なンて洒落《しゃれ》た言葉は後世《こうせい》の発明だから、大迫玄蕃が知っている訳はないが、とにかく、そんなようなことを考えて、自ら嗤《わら》うもののごとくにつと白い歯を見せると、彼はそのまま、再び謡本《うたいぼん》へ眼をさらし出した。
端坐
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