がそれだった。
大迫玄蕃、千代田城御書院番士のひとりで、四十余りのでっぷりした男だ。御書院番と言えば、現代《いま》で言う秘書課のようなところだから、わりに若手《わかて》が多かったもので、ここで柳営《りゅうえい》の事務を見習い、才幹《さいかん》があると認められれば、それぞれ上の役柄《やくがら》へ振り当てられて、出世《しゅっせ》をするやつは出世をする。出世をしないやつは出世をしない。そこは今も昔も同じことだが、失業だの生活難だのという複雑深刻《ふくざつしんこく》なる社会経済のなかった時代だから、何といっても呑気《のんき》なもので、御書院番の椅子――じゃアない、座蒲団《ざぶとん》だ――その御書院番士の座蒲団が一枚|空《あ》いているからと言って、官報第何号か何かでその欠員を募集するてエと、願書が何千通|山積《さんせき》して、その中で高文《こうぶん》をパスしたやつが何百人、帝大出が何百人、選びようがないからおめでたい名前を探《さが》して鶴亀千萬男《つるかめちまお》てえ先生を採用に決する……なんてことはなかった。一度御書院番に召し出された以上、定刻《ていこく》に出仕《しゅっし》して定刻に下城《げ
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