躍りこむように、駕籠をめざして突きさしたのだ。が、それと同瞬《どうしゅん》、駕籠の中から、垂《た》れを裂《さ》いて突き出して来た銀ののべ棒――三尺の秋水《しゅうすい》だ。声がした。「鍔《つば》を見ろ!」
ギョッ! とした長庵、差し出された刀の鍔《つば》に眼を凝《こ》らすと、黒地《くろじ》に金で「喧嘩渡世」の四字。
身をひるがえした長庵が夢中で駈け出したとき、男と女の笑い声を載せた駕籠は、もう夕闇《ゆうやみ》に消えていた。
びっくりしたのは、長庵である。思わず、どこか近所へ逃げこむつもりで、息せききって駈けつけて来たのが、中坂下《なかざかした》を通り、堀留《ほりどめ》の横町から真っ直ぐもちの木坂へ登ろうとする角《かど》の屋敷――西丸御書院番、大迫玄蕃の住居《すまい》。
と、そこにも一つ、より大きな驚愕《きょうがく》が長庵を待っていようとは!
大迫玄蕃の玄関の戸に、大きな貼紙がしてあるのだ――「お命頂戴《いのちちょうだい》!」下に小さく「只今参上《ただいまさんじょう》」
血滴抹殺線《けってきまっさつせん》
一
およそ寝覚《ねざ》めが悪いと言えば、大迫玄蕃
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