わけはない。しかし、話に聞いた人相とあんなに似ているところを見ると、これは、ことによると、弟の琴二郎ではないかしら? そう思って、前の駕籠をすかして見ると、派手な女の着物が隙間《すきま》から見えるのである。長庵は、胸に問い、胸に答えて、ウム! とひとりうなずいた。琴二郎に園絵――それに相違はねえのだ――。立ち停《ど》まって、駕籠《かご》の出るのを待った。やがて、駕籠は再び地を離《はな》れて、タッ、タッ、タッといきかかる。そこを、追いついた長庵、声を投げた。
「もし、琴二郎さまではございませんか。その後のお駕籠《かご》は、琴二郎さまではござんせんか」
と、すぐ、うしろの駕籠から、しずかな声が答えた。
「はい、琴二郎でござる。そういうあなたはどなたで――?」
ちょっと駕籠舁《かごか》きが足をゆるめて、駕籠が停まりかけた。そこを、長庵は狙っていたのだ。医者とは言え、あぶれ者の長庵のことだから、九寸五分ぐらいは何時《いつ》だって呑んでいる。それが、闇黒《やみ》に、魚鱗《ぎょりん》のごとく閃めいて走った。同時に、長庵、凄《すご》い声でうめいていた。
「面倒くせえや! 琴二郎、往生しろ!」
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