してみたいものだと、ひどいやつがあったもので、村井長庵、飛んでもない野望《やぼう》を抱《いだ》きはじめているのだった。
 で、きょうも、筆幸の店からの帰りみち、これから真っ直ぐに築土《つくど》八|幡《まん》へ廻って、何か口実を作って、琴二郎に会ってみようか――それとも、もうすこし日和《ひより》を見ようか――坊主頭を頭巾《ずきん》に包んで、うす菊石《あばた》のある大柄な顔をうつむかせた長庵、十|徳《とく》の袖に両手を呑んで、ブラリ、ブラリ、思案投げ首というとしおらしいが、考えこんで来かかったのが、九段下のまないた橋だ。
 人声がするので、フと顔を上げた。駕籠《かご》が二|梃《ちょう》、夕やみのなかにとまっている。と、その時、後の駕籠の垂れをはぐって覗《のぞ》いていた武士《さむらい》の顔!
 おや! と、長庵は、すこし離れたところで、眼をこすった。長庵は、神尾喬之助の顔は、知らないのである。が、当節《とうせつ》評判の人物だから、話に聞いて、大体の想像はつく。ハテナ、喬之助ではないかナ――と思った瞬間《しゅんかん》、長庵はすぐ思い返した。いや、お尋ね者の喬之助が、今頃こんなところを駕籠で通る
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