九段下へ出ようとして、俎《まないた》橋へさしかかる。あの辺は、中どころの武家やしきが並んでいて、塀《へい》うちから往来へ突き出ている枝のために、昼でも暗いのである。ましてやたそがれ刻《どき》、早や、清水のような闇黒《やみ》があたりを罩《こ》めはじめて、人通りはない。
先をいくお絃の駕籠《かご》が、つと路傍《みちばた》に下ろされた。前棒《さきぼう》の駕籠屋の草鞋《わらじ》がゆるんだから、ちょっとここで締め直して行きたいというのである。棒鼻《ぼうはな》が支えて、右近の駕籠もつづいて停《と》まったから、垂《た》れをはぐって顔を出した右近が、
「何だ、何だ、どうしたんだ」
「はい。ちょっくら草鞋《わらじ》を締め直させていただきやす」
「チェッ、だらしのねえ野郎《やろう》じゃアねえか」
「恐れ入りやす」
六
「なア幸吉さん、お前さんがあんなこと言って、脇坂様のお屋敷へ駈《か》け込んだりするものだから、殿様もすっかり真《ま》に受けて、さっそく八丁堀へお手配《てはい》なすって、多分の御人数を繰り出してみると、あれアお前さん、他人の空似《そらに》で、神田帯屋小路の喧嘩渡世、茨右近てえ
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