早えや。先生、喧嘩の先生、黒門町は、この通りお礼を申しやす」
「いや、その黒門町よりも、かく申す神尾喬之助、あらためて御助力をお願い申す」
「まママ、お手を、お手をお上げなすって――やい、お絃。酒買って来い!」
「あい来た。いま駈け出すところだよ」

      五

 こうして、黒門町があいだに立って、喧嘩渡世の茨右近方へ、食客《しょっかく》としてころがり込んだ神尾喬之助であった。
 同じ家に、同じ男がふたり居るようなもので、ことに、世間《せけん》の眼をくらますために、神尾喬之助は、髪《かみ》から服装の細部まで、右近と全く同じに拵《つく》っているのだから、二人いっしょにいるところを見られない限り、近所の人も怪《あや》しまずにいるのだ。茨右近が出て行ったかと思うと、その茨右近が家の中にいる。おや、何時の間に帰ったのだろう――と思うくらいのところで、根が変り者の変った世帯だから、誰も気にとめない。みな、茨右近の神出鬼没《しんしゅつきぼつ》ぶりに感心するだけで、喬之助という影武者《かげむしゃ》のいることには気が付かずに過ぎたのだった。
 が、そんなふうに、どこからでも見分けのつかないほどそ
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