音松の笑い声が聞えたのだった。
「お! こりゃア喧嘩渡世の旦那じゃアござんせんか。ついお見それ致しやして、面目《めんぼく》次第もござんせん。あははは、あなたさまは、神田帯屋小路の茨右近さまでございましたね」
 見事に取り違えた――のか、それとも、これは何か訳があると白眼《にら》んで、黒門町に義理《ぎり》を立てて喬之助を助けるために、とっさに似た人を思い出して、わざと間違えたのか――とにかく金山寺屋の音松が、笑い出してそう言うから、渡りに船とばかりに、ホッと張り詰めていた気を抜いた壁辰が、
「ははははは、金山寺の、とうとう気がついたか。おめえの眼は、さすがに高《たけ》えや。いかにも、このお方は、おめえの今言った、神田帯屋小路の――」
「喧嘩渡世の茨右近さま。なア、それに違えねえのだ」
 いよいよ情を知って助けるつもりとみえる。金山寺屋の音松は、眼顔《めがお》で知らせながら、教えるようにいったのだった。
 それを、逸早《いちはや》く、神尾喬之助も飲みこんで、
「いや、好奇《ものずき》から、かように下らぬ服装《なり》をしておるため、何かは知らぬが、あらぬ嫌疑《けんぎ》をこうむり、えらい人さわ
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