体《どうたい》が二つに開いて……。
「四番首!」
 腹から爆笑をゆすり上げている右近へ、遊佐剛七郎の伸剣《しんけん》が降り下った。掻いくぐった右近、床の間の凹《くぼ》みに駈《か》け上って、ここに初めて、豪剣を正眼に構える――鋼鉄に似た血のにおいで咽返《むせかえ》りそうな室内に、五人の剣陣が、床の間の前に半月形《はんげつがた》に展開した。燭台《しょくだい》の灯《ひ》が鋩子先《ぼうしさき》に、チララチララと花の様に咲いて……。

      四

 何を思ったか、茨右近の顔が、急に引き締まって見えた。もう笑ってはいない。かれは、身内に沸き立った殺気を感じて残りの五人を一撃に斃《たお》してやろう――と俄かに真剣になったのだ。
 なにをするか……と、見ていると、ピタリ肩落しにつけていた大刀を口にくわえた右近、スッと背伸《せの》びをして、帯を締め直し出した。五つの剣輪《けんりん》の中である。不敵! と、焦立《いらだ》った鏡丹波が、無形一刀の秘精《ひせい》、釘打《くぎう》ちの突き、六尺離れたところから刀を突き出して、斬ッ尖で釘を打ち込むという、これが源助町道場の大変な味噌《みそ》だったもので、また、丹波の最も得意とするところ……一気に来た。
 と、予想していたかのごとく、右近は、くわえていた刀を口から離す。その、落ちるところを空に引ッ掴んで、チャリイン! 丹波の突きを下から弾《は》ね上げながら、即《そく》、豹《ひょう》のように躍って横地半九郎へ襲い掛った。
「うむ! こいつア出来る」
 交《かわ》された丹ちゃん、にやにやして感服した。
 これで気がついたように、今まで黙りこくっていた五人の間に、一時に騒然《そうぜん》と声が起った。
「なるほど、出来る」
 遊佐剛七郎が、呻《うめ》くように繰り返した。出来る訳で、相手は喧嘩屋の先生である。
「部屋の中は、損だ。庭へ! 庭へ!」
「多勢に限る。誰か源助町へ呼びに行け」
「そうだ、先生を引っぱって来い」
「いや、先生には及ばぬ。三|羽烏《ばがらす》の一人で沢山だ」
 言う間も、右近を囲んで、ジリリ、ジリリ、詰め寄っているのだが、この源助町の三羽烏というのは、無形一刀流の大先生、神保造酒の直下に、
 大矢内修理《おおやうちしゅり》。
 比企《ひき》一|隆斎《りゅうさい》。
 天童利根太郎《てんどうとねたろう》。
 この三人を源助町の三羽
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