へ来合わせたものだと思いながら、出された茶を飲み飲み、身体じゅを耳にして、奥の話声に注意していると、五、六人の大声で、こんなことを言うのが聞えた。
「おい、おい、今年はいよいよ結城からあの平馬というやつが仕合に出ると申すではないか。あいつが一番厄介だな」
「あいつ、もう一年元服を延ばせばいいのになあ!」
「そんなこっちにばかり都合のよいことを言っても始まらん。しかし、平馬に出られては弱るよ、じっさい」
「俺はよくは知らんが、あいつそんなに強いのか?」
「強いとも、つよいとも、物見の申すことには、まず何流と言わず、平馬ほどの使手は、江戸にまいってもさほどにあるまいとのことだ」
「ふうむ――それは、平馬の強いことは、いまに始まったことではない。去年も一昨年もあいつが出れば俺たちは負けたのだ。それがまあ、まだ前髪があったばかりに、仕合へは出られなかったので、俺たちは助かってきたのだ。今年こそ出るとなれば、遺憾ながら我々は負けだな」
「四年目に奉納仕合の勝ちを結城へ持って行かれるのか。残念だな」
 と、いかにも無念そうに、一同が腕組みでもしているものとみえて、しばらく奥の話がとぎれたが、やがて
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