ろ考えているうちに、自分でも知らずにうっかり結城の自藩を出はずれて、ここまで来たものと見えるが、それにしても、いつあの月見橋を渡ったろう? さっき橋を渡ったくせに、平馬はすっかりそれを忘れているのだった。が、仕合が近づくにつれて、殺気立っている両藩の若侍である。ここが下妻の里とすれば、自分の姿を見つけられては、ひと騒動もち上るに相違ない。これは早々に引っ返した方がよい――平馬は急いで立ち上がろうとした。少女が止めた。
「ただ今お茶を――この辺でお見かけ申したことのないお方でございますが、あなた様は旅のお方でございますか」
「さよう」と平馬はどきまぎして、
「旅の者でござる」
するとこの時、奥の座敷で、大勢の人の話し合っている声が平馬に聞えた。
「何かの寄り合いですか」
平馬が訊いた。
「はい。旅のお方なら御存じございますまいが、この筑波のお山のお祭が近づきまして、例年のとおり、となりの結城藩と剣道の仕合がございますので、こちらの下妻の若侍たちが相談しているのでございます。ここの私の兄が、頭《かしら》なものでございますから」
はっ[#「はっ」に傍点]とした平馬が、これは面白いところ
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