ます。さっき籠の掃除をしようと思って、手を入れた拍子に逃げたのでございますが、でも、あなたが捕えて下さいまして、ほんとうにありがとうございました。きっと、もう遠くの山へでも飛んで行ったものと思って、私はがっかりしながら念のために外まで見に出たところでございました」
平馬も親しそうに微笑《ほほえ》みながら、
「いや、お礼をおっしゃられては困ります。拙者が鶯をつかまえたのではなくて、うぐいすが拙者を捕えたようなものでした。ぶらりと何心なくお宅の前を通りかかると、あの鶯が飛んで来て拙者の手の甲にとまった、はははは。それだけのことです」
こう言って平馬は、はじめて気がついたように、珍しそうにそこらを見廻した。武士の住居らしく、小さいながらもきちんと片付いて、気持の好い家である。はてな?――ここはどこだろう。平馬がこう思っていると少女は不思議そうに平馬のようすを眺めていたが、やがて、
「あの、あなた様はどちらの――?」
同時に平馬の方からも問いを発した、
「ここはどこです?」
「下妻でございます」
これを聞くと平馬は、ちょっとびっくりした。今度の仕合にどういう手で立ち合ったものかといろい
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