合も近い。
ところがここに、下妻の藩中に一つの暗い報告が齎《もたら》された。それは、今年こそは結城の平馬が、いよいよ仕合に出るらしいという一事である。
いったい、毎年試合が近づいて来ると、両方の藩から若侍たちが変装して、各々敵方の藩へ潜《もぐ》り込んで、敵の力量を探索することになっていた。これらの間諜は、あるいは町人に化けて、それとなしに道場の武者窓から試合ぶりを見たり、主《おも》だったひとりひとりの太刀筋や、手癖をきわめて、これを逐一自分方へ知らせて、応戦の参考にするのだったが、この二、三年、下妻の間者がいずれも舌を巻き怖気をふるって、引き返して味方へ報告したのが、少年剣客平馬の腕前であった。
あの平馬というやつに出られては、残念ながらこの下妻じゅうに歯のたつ者はあるまい――下妻の若侍一同、みなこう言って、顔を見合わせたものだが、幸いにして今まではいくら強くても平馬は仕合に出られなかったのだ。というわけは、仕合に出るのは若侍とかぎられ、元服して前髪を落した後でなければならなかった。そして平馬は、身体《からだ》こそ怪童として近在近郷に鳴りひびいていただけに、普通の大人以上に大きか
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