うき》の里。水野日向守《みずのひゅうがのかみ》一万八千石。
他は下妻《しもづま》の町、井上|伊予守《いよのかみ》一万石。
この二つの藩の若侍はことごとに仲が悪かったが、ことに筑波神社のお祭が近づいて来ると、いっそうその反目の気分が濃くなるのだった。そのわけは、毎年、筑波神社の祭礼に、両藩の若侍のなかから、剣にすぐれた者が選び出されて、社前で奉納の大仕合が行われる。結城の城下には、北辰《ほくしん》一刀流の道場があって、この仕合を目あてに猛烈な稽古を励《はげ》んでいるかと思うと、下妻には、真庭念流《まにわねんりゅう》の先生がいて、これも筑波の奉納仕合を目前に、それぞれ血の出るような修業をしているのだ。じつに、筑波神社の奉納仕合はたんに両藩若侍の間の勝負ではなしに、藩全体が力瘤を入れて、百姓や町人まで夢中になる一大年中行事であった。
今までの成績を見ると、三年前までは、ほとんど毎年のように結城の藩が、名誉の勝利を得てきたのだったが、それがどういうものか、下妻藩につづけざまに三年勝ち越されているのである。そこで結城の若侍、腕を扼《やく》し、歯を噛んで、今年こそはと意気込んでいる――その仕
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