相違ない――こう思いながら平馬が左手でそっ[#「そっ」に傍点]と押えると、鶯は逃げようともしないで、平馬の手のなかでまた啼いた。ホウホケキョ。
するとこの時、そばの一軒の家の枝折戸《しおりど》が開いて、ひとりの美しい少女が小走りに出て来た。そして、平馬が鶯をつかんでいるのを見ると、少女は嬉しそうにかけ寄って言った。
「まあ、どうもありがとうございました。あなた様が鶯をつかまえて下さいましたのでございますか」
平馬が困ってもじもじ[#「もじもじ」に傍点]していると、少女は口早やに説明した。鶯は少女が大事に飼っていたものだったが、籠の掃除をしている間に飛び立ったので、すぐ驚いて追っかけて来たということだった。
「もう遠くへ飛んで行ってしまったろうと思いましたのに、捕《つかま》えて下さいまして、ほんとうにありがとうございました」
こう言って少女は、改めて御礼を言いたいから、ちょっと休んでお茶でもと、先きに立って平馬を案内した。赤くなって平馬、仕方がないからついて行った。
庭へはいる。
奉納仕合
常陸《ひたち》の国、筑波山の麓。
山を背負って二つの藩がある。一つは結城《ゆ
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