、下妻方の人数一同、きらり、きらりと抜きつれて迫った。
 霧に煙る剣陣。
 だが、少しも驚かない平馬。ぱっ[#「ぱっ」に傍点]と羽織を脱ぎ捨てるが早いか、とっさに豪刀の鞘《さや》を払って、一声大声にどなった。
「さあ、みんな出て来い! 俺はこの鏡之介を相手にするから、各々方はこやつらを斬り散らして下されい」
 すると、この声に応じて、橋の下の横柱から無数の黒装束が蟻の群のように、橋の上へ這い上った。十人。十五人。二十人。三十人――結城の伏勢である。
 ここで霧の中の月見橋の上に、一大争闘の場面が現出したが、結果は分明だった。多勢に無勢をもって、平馬一人を取っちめようとした鏡之介ほか下妻の一同も、二十人に対する三十人以上では、同じく多勢に無勢で、かえって蜘蛛《くも》の子を散らすように退散しなければならなかった。
 平馬は、斬ろうと思えばいくらでも鏡之介を斬り捨てることができたけれど、あの優しい千草の兄と思えば、平馬にはそれはできなかった。
 わざと下妻の者をおびき寄せて森の奥の密談を聞かせ、それから橋の下に伏兵を忍ばせておいて、平馬ひとりが橋を渡るという――これはすべて平馬の計画で、手紙
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