したまま平気で丸太を乗り越えたかと思うと、そのまま橋の上の霧に消えて行った。番人も仕方がないから、ぶつぶつ[#「ぶつぶつ」に傍点]言いながら、後に残った三人の友達と話していた。
 月見橋。
 名は美しいが、今夜は月どころか、ひどい霧である。まるで雨が降っているように、欄干《らんかん》から橋板がびっしょり[#「びっしょり」に傍点]濡れて、ともすれば辷《すべ》りそうになる足を踏みこたえながら、平馬は大刀の柄に手をかけて、きっ[#「きっ」に傍点]と先方に眼を凝らして進んだ。
 と!
 橋の中央にさしかかった時だった。ゆくてに赤っぽい提灯の光が見え出すが早いか、ばたばたと大勢の足音がとんで来て、突如、霧の中から躍り出た二十人余の人数が、橋上に平馬を取り囲んだ。
「汝《なんじ》は結城藩の平馬であろう?」
 先に立った一人が言った――千草の兄鏡之介である。
「平馬、俺がさっき貴様らの会合に忍んで、貴様の来るのを知って、ここに待ち伏せしていたのだ。奉納仕合の前に真剣勝負だ。来いっ!」
 叫ぶと見るや、鏡之介、真庭念流の覚えの腕に、氷刀一時に閃めいて、さっ[#「さっ」に傍点]と平馬の退路に立つ。同時に
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