を齎した鸞は、平馬の愛している飼鳥であった。こうして敵をおびき出して逆にその裏をかいたのである。もとより橋の壊れたというのも敵の計で、乱闘中に結城方からの邪魔を入れないためにほかならなかったが、その番人も平馬の友達三人のためにすぐに押えられていた。
 その夜明け、傷ついた鏡之介が、平馬の肩に縋《すが》って、あの鶯の宿にとどけられた。
 そのお礼として千草は平馬に、いつかの鶯を呈したので、豪雄平馬、二羽の鶯を大事に飼うことになった。
 この鶯の啼き交わす長閑《のどか》な美しい声に結ばれて、さしも長い間わだかまっていた結城、下妻両藩の間の悪感情もとけて、それから後は、両藩の若侍たち、嬉々《きき》として邪念なく、和気靄々《わきあいあい》のうちに、正しく神前に勝負を争うことになった。武は勝たんがための武ではない。正しく生き、健《すこや》かに明るくあらんがための武であり、剣であるということが、この二羽の鶯を見るたびに、いつまでも両藩の若侍たちの胸に力強くひびいたという。
 平馬はもとから自分の飼っていた鶯を結城と呼び、千草鏡之介、兄妹から贈られた鶯を下妻と名づけて、毎年、筑波神社祭礼の奉納仕合の
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