が、この霧をはらしてからにしたまえ。この深夜の霧の中を敵地へ踏み込むのは、みすみす敵の術中に陥るようなものだ」
と、みんなが口を揃えて思い止まらせようとしたが、平馬はいっかな聞かなかった。
「なに、これから行って一泡吹かせてやるのが面白いのだ」
こう言って頑張りとおしたすえ、とうとう平馬が一人でこの霧の深夜に月見橋を渡って下妻の里へ乗り込んで行くことになった。
ここまで聞くと木の影の鏡之介、今夜こそ好機、途中待ち伏せして、大勢でひどい目に合わしてやろう。ことによったら斬り殺してもかまわぬと思いながら、急いで立ち上って森を出ると、韋駄天走《いだてんばし》りに自藩の方へ駈け出した。
あとには、森の奥の結城組一同、平馬を中心に小さな輪に集って、額を突き合わして何事か真剣に談合している。
霧が濃くなったとみえて一同の肩が重く湿る。近くの木で、ホウ、ホウと二声、梟《ふくろ》が啼いた。
濃霧の夜
「それではそこらまで送って進ぜよう」
いつの間に帰ったものか、集っていた人数の大部分がいなくなって、森に残っていたのは、平馬を取り巻く三人の友達だけだった。それが、月見橋の袂《たもと
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