えこむと、すぐに平馬の声があとを引き取って、
「各々方の忠言、まことにありがたい。ありがたくはござるが、この平馬、下妻のやつらなど少しも恐れてはおりませぬ。先方が仕合前に、そんな小策を弄して拙者の出場を邪魔だてしようというのなら、拙者にも考えがござる!」
「考えとは、どういう考えです?」
「ほかでもござらぬ。そんなにやつらが、拙者を狙っているなら、今宵これから拙者が単身下妻の城下へ乗り込んで、大通りにふんぞりかえって、眠って見せてやろうと考える。朝になればどうせ拙者を見つけて、大さわぎをするであろうが、そこで拙者が、眼を擦りこすりむっくり[#「むっくり」に傍点]起き上って、下妻城下のやつらを白眼《にら》みかえして帰って来るのだ。先んずれば人を制す。こうして出はなを挫《くじ》いてやれば、さぞ痛快だろうではないか?」
 平馬のこの突飛《とっぴ》な申出には、大分反対の声が湧いた。そうとう腕の立つ連中が大勢、刀に手をかけて探しているのに、そこへこっちから乗り込んで行くというのは、まことに危険な物好であると言わなければならない。
「一人で行くのか」
「もちろん一人で行く」
「しかし、それも面白い
前へ 次へ
全23ページ中17ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
林 不忘 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング