色の姿が見えて.それがしばらく籠のなかのうぐいすとしきりに啼き交わしていたかと思うと、つ[#「つ」に傍点]と羽ばたきをしながら、梅の枝をはなれた鶯が、縁側の籠の前へとんで来た。籠を隔てて二羽の鶯が何事か親しげに囁き合っているように見える。
 少女はうれしそうににっこり[#「にっこり」に傍点]して、そして新来の珍客を驚かさないように気をつけながら、そっと籠のそばへ寄った。この、どこからともなく飛んで来た鶯も、長らく人に飼われていたものとみえて、少女が近づいても逃げようともしない。で、ふとその脚《あし》を見た少女は、急いで籠の外のうぐいすを押えた。紅筆《べにふで》のような鶯の脚に小さな紙片がしばってあるのだ。
 少女が紙を解いて見ると、小さく畳んだ手紙のようなものである。鶯はそのまま放してやって、少女が手早く紙をひろげようとしていると、後で荒々しい音がした。振り返って見ると、兄の鏡之介である――真庭念流の剣客で、下妻藩の若侍たちのあいだに、牛耳《ぎゅうじ》をとっている荒武者。
「千草、何だその手紙は?」
 と、鏡之介はすぐに少女の持っている紙片に眼をつけた。千草と呼ばれた少女は、もう怖そう
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