におずおずと、兄鏡之介の前へその紙を差し出した。
引ったくった鏡之介が読んでみると――。
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下妻の方々へ申す。
平馬をはじめ結城藩の若侍一同、今宵深更《こよいしんこう》、結城の城下はずれの森に会合致し、筑波神社祭礼神前仕合の策戦をなすよし、たしかなる筋より聞き及び候間《そうろうあいだ》御参考にまで密告仕侯。よろしく御取り計《はから》いあって然る可く存じ候。
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[#地から2字上げ]蔭乍《かげなが》らお味方の一人より
読み終った鏡之介は足許の妹千草を睨《ね》めつけて訊いた。
「どこからこの手紙が舞い込んだ?」
「はい。どこからともなく一羽の鶯が、この私のうぐいすを慕って飛んでまいりまして、あの、その鶯の脚にこの御手紙が巻きつけてあったのでございます」
「ふうむ。そうか――鶯の便とはちかごろもって風流な話だな」
と、言ったかと思うと鏡之介、そのまま手紙を握りしめてどんどん奥へはいって行った。頭のなかで今夜結城の会合に対する素晴しい計画を思いめぐらしながら。
矢筈の森
宵のうちにちょっと顔を見せた月は、間もなく霧に呑まれて、森の木
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