ぐいすの声と、それよりもっと朗かで優しい少女の微笑《ほほえみ》とに送られて、平馬は往来へ出た。
 自分の背丈もあろうかという大刀を横たえた平馬の姿が、春霞にかすむ野道を結城の町の方へたどって行く。それが点となって消えてしまうまで、少女は門に立って見送っていた。
 その向うに、筑波の山が胸から上を雲にあらわして、あるかなしかの風に、紅梅の花びらが少女の上に散った。

   うぐいすの便

 それから二日ばかり大雨だったが、その雨のはれた朝のことだった。鶯の宿の少女が、縁に出て、陽の照る庭に立ちのぼる水気を嗅ぎながらいつものように、籠のなかの鶯に戯《たわむ》れていると、その朝にかぎって、どうも鶯のようすがへんだった。なんとなくそわそわしている。と思ってよく見ているうちに、どこか遠くでほかのうぐいすの声がした。ホウホケキョというその啼《な》き声は、はじめはかなり遠くの方でしていたが、それがだんだん近づいてきて、今度はどこか家の近くで大きくはっきり[#「はっきり」に傍点]と啼くのが聞えた。すると少女の鶯も友達が来たのを喜ぷように盛んに啼きたてた。やがて庭先の梅の小枝に、ほかの鶯の黄ばんだみどり
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