》まででも平馬を送って行くということになって、四人、霧の中に提灯をともして、矢筈の森を後にした。
やがて来かかったのが月見橋|橋畔《きょうはん》。
霧の奥に川の水音が寒々しく流れて、寂寞《じゃくまく》たる深夜のたたずまい。
と、橋の袂にぽつり[#「ぽつり」に傍点]と一つ提灯の灯が見えて、何やら黒い人影が――。
近づいて見ると、橋に丸太を打ちつけて、それに紙が貼ってある。
橋の中央破損につき通行禁止の事[#「橋の中央破損につき通行禁止の事」は太字]
平馬が提灯をつきつけると、こう読めた。提灯を持って番人が立っている。
「どうしたのだ? 橋の真中がこわれたとあるが――」
平馬たちが番人を返りみると、番人の男は続けさまにおじぎをしながら、
「へい。どうしたものか真中から少し下妻の方へ寄ったところが落ちまして、通れないほどではございませんが、なにぶんこの霧で危のうございますから、いっそ通行を禁じた方がよかろうということになりましたので、へい」
「いつから禁止になったのだ?」
「いえ、つい今しがたでございます。いま手前が来て通行止の丸太を打ちましたところで」
平馬はそれを聞き流したまま平気で丸太を乗り越えたかと思うと、そのまま橋の上の霧に消えて行った。番人も仕方がないから、ぶつぶつ[#「ぶつぶつ」に傍点]言いながら、後に残った三人の友達と話していた。
月見橋。
名は美しいが、今夜は月どころか、ひどい霧である。まるで雨が降っているように、欄干《らんかん》から橋板がびっしょり[#「びっしょり」に傍点]濡れて、ともすれば辷《すべ》りそうになる足を踏みこたえながら、平馬は大刀の柄に手をかけて、きっ[#「きっ」に傍点]と先方に眼を凝らして進んだ。
と!
橋の中央にさしかかった時だった。ゆくてに赤っぽい提灯の光が見え出すが早いか、ばたばたと大勢の足音がとんで来て、突如、霧の中から躍り出た二十人余の人数が、橋上に平馬を取り囲んだ。
「汝《なんじ》は結城藩の平馬であろう?」
先に立った一人が言った――千草の兄鏡之介である。
「平馬、俺がさっき貴様らの会合に忍んで、貴様の来るのを知って、ここに待ち伏せしていたのだ。奉納仕合の前に真剣勝負だ。来いっ!」
叫ぶと見るや、鏡之介、真庭念流の覚えの腕に、氷刀一時に閃めいて、さっ[#「さっ」に傍点]と平馬の退路に立つ。同時に
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