宗七と、川俣伊予之進の二人。
何が何やら解らない気持――三すくみ。
文珠屋佐吉は、この法外流道場を預っている師範代、泉刑部に、自分は、この家の千浪が為体の知れぬ白覆面の武士に伴われて行くのを見かけて、この承知の由公に後を尾けさせたが、うまく晦《ま》かれてしまったと話しているところへ、どやどやと踏み込んで来た荒らくれ武士がどなったには、祖父江出羽守がおしのびで、父と共に三国ヶ嶽の猿の湯へ行っていた娘はどうしたという。
誰かは知らぬが、故法外先生の仇の、あの白覆面に化けすましたとだけ思っていた伴大次郎も、そこに居合わせた文珠屋佐吉も、この、
「祖父江出羽守の――。」
と言った声に、ぎょっと声を呑んだ瞬間、そこへ櫓下宗七と与力の川俣が飛び込んで来たのだ。
「さては、きゃつめ、祖父江出羽守であったか。」
と、大次も思わずびっくりすれば、あの、三国ヶ嶽のお花畑以来、妙に因縁のある弥四郎頭巾が、七年この方眼ざして来た出羽だったのかと、佐吉も胆をつぶすと同時に、見れば面前に、その白覆面白服の祖父江出羽守が突っ立っているので――それを大次郎とは知らぬ文珠屋佐吉、
「やいっ! うぬあ出羽だなっ
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