「ぷふっ!」と与助は、笑いを手で受けるような恰好をして、
「大分御意に適《かな》ったようで。」
「茶化すもんじゃあねえ。おらあ真剣なんだ。おめえも、心から惚れる女に行き当たって見ねえ。おいらの今の気持ちのように、陽かげの世渡りゃア嫌になるし、とてもその女のことを、不真面目な口で話すこたあできなくならあ。おれの胸がおめえにゃアわからねえんだ。」
「そういうものでございますかね。あっしゃアまだ、とんとそのほうの運が向いてこねえから、ふっふふ――ところで親分そんなに気に入った女なら、引っ担いでくりゃあ世話あねえじゃごわせんか。」
「馬鹿あ言え。菩薩のような、もってえねえお方様だ。拝んだら、眼がつぶれるほど美しいや。それに、ちいと奇妙な引っかかりもあってな。」
「おやおや、もう、お惚気《のろけ》ですかい親分、ははははは――そりゃあそうと、さっきね変てこな武士が一人、宿を取りやしたよ、女を伴れてね。」
 佐吉は、異様に眼を光らせて、
「へんな武士が女をつれて?」
「へえ。二階の『梅』へ通して置きやしたが、男も女も手ぶらでね――大方、今夜だけの泊りでげしょう。」
「二人連れか。どんなやつら――。」
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