まね》いて、「そりゃあ親分、本心でござんすかえ。」
「うむ。まあ、本心と思ってもらいてえ。おいらも、本心と思いてえのだが――。」
「へへへへ、なあに、そう弱っ腰になった理由《わけ》は、じぶんの高札を見て浅ましい気におなんなすった――というんじゃあござんすめえ。一つ、この与助が卦《け》を置いて、図星を当ててみやしょうか。」
「それも面白かろう――。」
 と、佐吉は、しきりに何かほかのことを考えている顔で、
「じゃあ、おいらは別に思惑《おもわく》があって、この煩悩小僧が嫌になったとでも言うのかえ。」
「女でがしょう、親分。」
 与助は、ずかりと言って、膝を進めた。
「おんなだよ。親分。隠しなさんな。何もきょう始まったこっちゃあねえ。山から帰ってから、親分は夜の稼ぎに身が入らずに、昼も、まるで腑が抜けたように考えこんでばっかり、青息吐息――十八島田の恋わずらいじゃアあるめえし、人は知らねえが、ぼんのう小僧ともあろうものが見ていて、あっしゃあ小じれってえよ親分。」

   江戸の巻――奇術駕籠《てじなかご》――

     お山土産

「面目ねえ。女だ。が、笑ってくれるな。」と文珠屋佐吉は、自
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