、横に斜めに、何本もの斬尖が、反対側へ突き出ているのだ。中の女は、ひとたまりもなく一寸刻みに刺されたであろう、見物は声を呑み、顔色を変えて凝視めている。
「そう驚くことはない。これからが大変なのだ。」
 と笑った大次郎、
「この刀は、すべて触れば斬れる逸物揃い、証拠のために。」
 とまた、刀の束から二本とって、刀身をかちかちと打ち合わせて見たかと思うと、
「ええいっ!」
 と裂くような一声。また一本を上から駕籠へ突き刺した。同時に、
「や!」
 とまた今度は、駕籠の背後から、中の女の背を突き通すように、柄元まで駕籠へ刺し込む。
 群集のある者は、もう眼を掩《おお》っている。
 気の弱い女などは前にいたのが、そろそろと背後へ引っ込んで行く。
 見る間にその三十本の刀全部が、前後左右と上から、柄まで駕籠へ刺されて、駕籠はまるで、栗のいが[#「いが」に傍点]のよう――。
 中の女は、もう眼も当てられない肉塊と化し去ったことだろうが、それにしては、駕籠を通して、血がすこしも流れ出ないのが不思議と、見物は眼を見張っていると。
「これでよし。女はずたずたに刺し殺されてしもうた。そこで、お立ち会い! 今わしが、この三十本の刀を引き抜くから、誰でもよい、すぐこの綱を取り払って、駕籠の垂れを上げてほしい。」
 そう言いながら大次郎は、駕籠のまわりを歩いて、その三十本の刀を全部抜き取ってしまう。
 最後の一本が抜き取られるのを待って、群集の中から飛び出した二、三人が、素早く縛ってある細引きを取り外け、駕籠の垂れを開けると、中から千浪がにっこり笑いながら、駕籠を出て来た。身体はもちろん、着物にも帯にも、いずことして疵一つない。
 あまりの妙技に、群集はどっと歓呼の声を揚げる。
 宗七もお多喜も、われを忘れて凝視めていた。気の早い江戸っ子の群集なので、大次郎が扇子をひろげて歩き廻ると、ばらばらと鳥目《ちょうもく》が扇子の上へ飛ぶ。
 三十本の刀を鞘におさめ、その細引きでぐるぐる巻きにして駕籠へほうり込むと、これで芸は終った。
 千浪は恥かしげに終始駕籠のわきに首垂れて立っていた。
 これは別に不思議はないので、中にはいる千浪の坐り方一つにある。
「木曾の桟橋《かけはし》」と言って、手足をひろげ、胴をくねらせて、狭い駕籠のなかで、一種独特の微妙な坐り方をするのである。それがわかっているから、大次郎は、一厘一毛の隙でその千浪の身体を避けながら、縦横無尽に刀を突き刺す。千浪の身体が崩れず、すこしも動かない以上、これはなんら危険はないのだ。
 駕籠を突き刺す場所まで、一つ一つ大次郎には決っていて一瞬間の居合いの骨《こつ》、手許の狂うことは断じてないのである。
 法外流居合の秘奥《ひおう》「駕籠飾り」――その刀を刺した駕籠が何十本となく、光る笄《かんざし》で飾られた女の髪のように見えるところから来た、名称だった。

     御代参

 が、大次郎は、どんなことがあっても女髪兼安だけは駕籠へ刺し通すことはしなかった。
 煩悩を宿す妖剣、手許が狂って、千浪の身体に触れないともかぎらないので。
 こうしてこの千浪と駕籠と、三十本の刀を資本に、彼はこの「木曾の桟橋――駕籠飾り」の芸を売物に、江戸の町から町と、さまよい歩いている。弥四郎頭巾の異装と千浪の美貌と、この離れ業が人気を呼んで、大次郎のとどまる辻々は、いつも人で黒山だが――。
 するとある日、岡っ引の職分を利用して、それとなく出羽守の動静を探索していたやぐら下の宗七が、文珠屋佐吉の許へ報告を齎《もたら》したのには、
「祖父江出羽守が、故郷の遠州相良へ帰って行く。」
 ということだった。
 出羽のいない江戸に、三人は用はないのだった。
 大次郎も千浪を伴い、この駕籠の奇術《てじな》を道中で演じながら東海道をまっすぐに遠州へ上ることになる。
 こういう時こそ煩悩の金魔と化して、煩悩小僧として盗み溜めておいた金を役立てる場合であると、文珠屋佐吉は、手品用の――と言っても、何の仕掛けもないのだが――朱塗りの美しい駕籠を新調して、大次郎に持たしてやると同時に、自分も、その文珠屋の店は番頭の与助に任せて、承知の由公を連れて大次一行の背後から見え隠れ、これも飄々乎《ひょうひょうこ》として旅に上った。
 やぐら下の宗七は。
 密偵としての役を果たすとともに、妻のお多喜と一緒に、預っている狂女小信をいたわりながら、この三人は一番後から、東海道を上って行くので。
 四つの奇妙な行列の一行が、一日行程ぐらいの間隔をおいて、東海道を西へ、西へ――。
 先頭は、国へ帰る祖父江出羽守の大名行列。それから一日ほどおくれて、大次と千浪の手品駕籠の辻芸人、そのつぎは、文珠屋佐吉と承知の由公の主従。そしてしんがりは、宗七お多喜の二人が狂女小信を
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