中に挾んで、夫婦連れ弾きの恋慕流しの旅姿。
この四組は、前後して遠州相良の城下へはいった。
「おう、今度八幡のお祭りに、境内へかかっている浪人の駕籠の手品は、素晴らしい人気だぜ。」
「うんそうだってなあ。美しい女子を駕籠の中へ入れて、めっちゃやたらに刀を突き刺しても、姐さんは疵一つ負わずに、にっこり笑って出て来るっていうじゃねえか。たいしたもんよなあ。」
と城下の人々の間には大変な人気が湧いたというのは、折よく大次一行をはじめ、三煩悩の一同が城下へはいって四、五日すると、遠州で有名な相良八幡の大祭礼。そこの境内へ、大次と千浪がかかることになったわけで。
今日は、その祭りの当日である。
年に一度の八幡の祭りだというので、城下は上を下への浮かれ調子、老も若きも打ち連れて、お宮へ、お宮へ――近郷近在からも、百姓衆が泊りがけで出て来て、境内にはありとあらゆる見世物の小屋がけ、客を呼ぶ声、物売りの叫び、着飾った人々、迷い子、喧嘩、掏摸、怪我人、大変な雑沓。
「下に、下に――! 下におろうっ!」
先きぶれの声が群集を分ける。太守祖父江出羽守参詣の行列だ。
庶民はわらわらと左右に崩れ込んで、裾を叩いて土下座する。その中を鳥毛の槍、鉄砲、奴《やっこ》の六法。美々しい行列が、鳥居をさして練って行くのだが――。
御代参である。
国家老が殿のかわりに、参詣するので――と言うのは、その太守の駕籠の中にはいっているのは家老で、肝腎の殿様は、お祭りの参詣など、こうして家老に押しつけたまま、自分は例の弥四郎頭巾に面体を包み、白絹の紋付に朱鞘の落し差し、群集のなかに紛れ込んで、かえって行列へ向って軽く頭を下げたりなどしているから、この祖父江の殿様、かなり人を喰っている。
神前白羽の矢
行列を見送った祖父江出羽守は、群集に伍してぶらりぶらりと、境内の見世物の間を歩き廻っているとふと眼についたのは、一段と人を集めている居合抜きである。
近づいて見ると――驚いた。
自分と同じ服装の、あの伴大次郎が、忘れもしない妻の千浪と共に、人を集めて何かしゃべり立てている。その足許に赤く塗った美しい駕籠が置いてあるので。
大次郎の口上よろしくあって、いつもの手品駕籠が始まったが、群集の中から秘かにそれを見物した出羽守は、すっかり度胆を抜かれた。
すると、この、人中の出羽を素早く見つけたのが、大次一行と一緒に城下入りをして、今日もそれとなくこの群集の間に出羽の姿を物色していた文珠屋佐吉、承知の由公、宗七お多喜の連中である。小信は、理由を話して、宿に看視を頼んで残して来ていた。
あらかじめ手筈ができている。佐吉が群集の中から、さっと手を挙げて、それとなく、ここに祖父江出羽守の来ていることを大次郎に知らせた。
と! それを見ると大次郎は、素早く群集の中へ飛び込んで、まるで逃げるように、一時、どこへともなく姿を隠してしまったのである。奇怪な大次の行動――。
有名なこの手品駕籠だから、もう一度見たい人が多い。評判を聞いて、今やって来たばかりの者も尠くないから、群集は承知しないのだ。
「おい、あの白覆面の居合抜きは、どこへ行った。」
「駕籠の女だけじゃあ芸にならねえ。」
「あの侍を探し出せ。」
「白覆面を探し出せ。」
途方に暮れたように、駕籠のそばに立っている千浪を取り巻いて、群集は、がやがやと大変な騒ぎになった。
すると、人々の中から、文珠屋佐吉が大声を張り揚げ、
「あ! あの居合使いは、そこにいる。白覆面は、そこにいるじゃねえか。」
とやにわに、人々の肩越しに、祖父江出羽守をゆび指した。
「そうだ、ここにいる。なんだ、こんなところに立っていたのか。」
「お侍さん、もう一度やってお見せなすっておくんなせえ。」
「もう一番お願えしやす。」
出羽守が気がつくと、人々の顔がいっせいに彼に向いて、なかには、前へ来てお辞儀をするもの、何本もの手が、背後からぐいぐいと押し、前から引っ張って、
「いやおれは違う。おれはこの居合抜きの侍ではない。」
出羽は頭巾の中で苦笑して、抗弁やら弁解やら――今さら城主の祖父江出羽だとも言えず、また言っても、殿様がこんな風態で、一人で歩いているなどは、誰も信じてくれるもののないのは知れきっている。
第一、殿様はいま、あの行列の駕籠に揺られて通って行ったばかり、今ごろは社殿で、厳粛に参拝していると思われているのだから――。
「違うも違わねえもありゃしねえ。お前さんは、今ひょっくり見えなくなったあの白覆面のお侍じゃあねえか。」
「着付けから紋まで同じだ。そんなことを言わねえで、もう一ぺんやって見せてくんなせえ。」
「違う! 違うと言うのに! これ、放せ、放さぬか。」
と、争いながら出羽は、群集の手で、とうとうその
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