の姉の部屋で雑音《ものおと》が致しますので、変に思って上って来て見ますと、まあ、親分さん、姉がこの有様――どうぞ、仇敵を――姉ひとり妹一人の大事な人でありましたものを、ほんとに親分さん、お力で仇敵を取って下さいますようお願い申し上げます。」
「うむ。」藤吉は首肯《うなず》いて初太郎へ、「お前ら二人とも、この外の軒先《のきさき》に、お美野さんが吊る下ってるのを見たてえのだな。それが、ふたりが二階へ上って来る間に、部屋の真ん中に引き上げられていた――。」
「そのとおりでございます。」
初太郎と宇之吉が、ごくりと生唾を飲み込んで、一緒に合点合点をすると、藤吉の笑い声が、やにわに彦兵衛へ向けられた。
「やい、彦。屍骸が自力で、綱を伝わって上ったとよ。あんまり聞かねえ話さのう。」
七
「けっ! 面白くもねえ、大方二階から、綱を手繰ったやつがあるんだんべ。」
「きまってらあな。」勘弁勘次が口を尖らせて、「引っ張り上げておいて、縁から庭へ飛んで逃亡《ずら》かったんですぜ、ねえ親分。」
「ま一度ちょっくら、仏を拝ませておくんなせえ。」
藤吉はそう言って、お美野の死体の傍に躙《にじ》り
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