だ。この年齢になって石場の番人なんて、外聞《げえぶん》が悪くて、人に話もできやしねえ――。」
おこうは取り合わずに、
「また愚痴がはじまったね。まあ、いいじゃないか。もう一ぺん将棋をおさしよ。今度はお前さんが勝つだろうから、それで機嫌を直すんだね。」
息子の庄太郎が、むっくり起き上って、
「ほんとだ。父《ちゃん》もおふくろも、もうすこし辛抱していてもらえてえ。おいらが一人前の瓦職になるまであ、ま、隠居仕事だと思って、この石場の番人をつとめていてくんねえよ。なあに、おいらだって、いつまでもこのまんまじゃあいねえつもりだ。おっつけ親方の引き立てで、相当の人区《にんく》を取るようになる。そうすりゃあ、父にもおふくろにも、うんと旨《うめ》えものを食わして、楽をさせてやらあ。」
急にしんみりと、おこうは、涙ぐんで老夫《おっと》を見た。
「庄太が、まあ、あんなたのもしい口をきくじゃあないか。いい若い者で、悪遊びに一つ出るじゃあなし、――あたしゃなんだか、泣かされましたよ。」
「やい、庄公。」惣平次も気を取り直して、「こりゃあおやじが悪かった。てめえのような評判の孝行息子を持ちながら、不平《こ
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