、不可思議な出来事であれば、あるほど、その連鎖に、偶然の力が色濃く働いていて、いっそう解決は容易なのである。
 釘抜藤吉は、漠然《ぼんやり》とだが、いつも、こんなようなことを考えていた。岡っ引藤吉の、岡っ引らしい、これが、唯一の持論だったと言っていい。
 が、この竜手様の一件だけは、その最後まで考え合わせると、ただ単なる偶然として、片づけ去ることのできないものがあるように、思われてならない。
「薄っ気味の悪い不思議だて――。」後あとまで、藤吉はよくこう呟いて、首を捻ったと言う。不思議ということばを、釘抜藤吉は、はじめて口にしたのだった。
 偶然を、藤吉親分は、巡り合わせと呼んでいたが、そのめぐりあわせだけでは説き得ない、割りきれないものが、藤吉《かれ》の心に残ったに相違なかった。
 惣平次は、しなだれて、押入れを開けた。奥へ這い込むようにして、しばらく押入れ中ごそごそ言わせていたが、やがて、発見《みつ》け出した竜手様を、汚なそうに、怖ろしそうに、指さきに挾んで、腰を伸ばした。
 額部が、汗に冷たく、盲目のように、空に両手を泳がせて、部屋の真ん中に立った。
 おこうの顔も、米のように、白
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