て、三人の顔を、赤く、黒く、明滅させている。大きな影法師が、はらわたの覗いている壁に倒れて、けむりといっしょに、揺らいでいた。
 番小屋のおやじ惣平次《そうへいじ》と、ひとり息子の庄太郎とが、炉ばたで、将棋をさしているのだ。母親のおこうは、膝もと一ぱいに襤褸《ぼろ》を散らかして、つづくり物をしながら、
「年齢《とし》はとりたくないね。針のめど[#「めど」に傍点]が見えやしない。鳥目《とりめ》かしら――。」
 ひとりごとを言いいい、糸のさきを噛んだ。
 いきなり惣平次が、白髪あたまを振った。癇癪《かんしゃく》を起したのだ。盤をにらんで、ぴしりと、大きな音で、駒を置いた。
「えれえ風だ。吹きゃあがる。吹きゃあがる。風のまにまに――とくらあ。どうでえ庄太、この手は。面《つら》ああるめえ。」
「庄太、しょた、しょた、五人のなかで――。」
 庄太郎は、「酔うた、酔た、酔た」をもじって、低声《こごえ》に唄った。持ち駒を、四つ竹のように、掌の中で鳴らした。
 そして、炭のように黒いであろう戸外の闇を、ちょっと聴くような眼つきになって、
「なあに――。」
「おっと! こりゃあ! いや、風にもいろいろあ
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