っていることが、誰からともなくすぐ伝わったとみえて、急に、女どもの白い顔に、恐怖が来た。
藤吉は、その、一列にならんでいる梅の家連中を、覗って、例の眇《すがめ》で、右から左へ、左から右へ、二、三度じっと、撫でるように見渡していたが、やがて、口の隅から呟くように、
「踊りてえものは、難かしゅうごわしょうな。」
一応、調べられる――と思っていたのが、藪から棒に、この問いだったので、女たちは、変に拍子抜けがして、いそいで互いに顔を見合った。金魚のように、長い袂をゆすって、笑いかけた女もあった。ひとり、少し年長《としかさ》らしいのが、
「はあ。でも、親分さんなどは、お器用でいらっしゃいますから――。」
「はい。おいらだってこれで、まんざらでもねえのさ。」
こういって藤吉は、やにわに、妙な恰好に両足を動かして、踊りの身振りのようなことをして見せた。
梅の家連は、武右衛門の死を忘れて、きゃっきゃっと笑いこけて奥へ駈けこんで行くし、幸七も、ぷっとふきだしたが、本人の藤吉と彦兵衛だけは、にこりともしなかった。
七
「円枝さんは、先に引っ込んだ。おこよさんは、ここで、紋之助師匠と
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