たように、彦兵衛の顔を大得意に見せているのである。
が、いつしか彼も、そんなことで呑気《のんき》に構えてはいられなくなった。
二二んが四、二三が六――これならなんでもないが、この武右衛門の死は、二二んが五、二三が七でもあり、八でもあろうという、異中の異である。理外の理である。
釘抜藤吉も、とくと思案しなければならなかった。
思案に落ちると、かれは爪を噛む習癖《くせ》がある。
で、いま藤吉は、こうしてしきりに爪を噛んでいるのだ。
六
高座からは、梅の家連の踊りの足ぶみ、手拍子が、お囃しの音とともに、賑やかに聞こえて来ている。
四、五人が、細い廊下に重なり合って武右衛門の屍骸を覗き込んで、みな集っていた。
戸外《そと》は、初夏の夜の霧雨が、濃くなって行くらしい。
近くの紀伊の国橋のはし桁《げた》を鳴らして、重い荷を積んだ大八車の通り過ぎて行く音が、どうかするとかみなりのように大きく長く、つづいていた。
銀兵衛が立ち去って行くと、藤吉は、席主の幸七と葬式彦兵衛を伴れて、高座の上り口近い、はだか蝋燭の立っている戸のそばまで、引っ返した。
戸の隙間から高座を
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