高笑いを洩らした。
「仙さん、お前寝る前にとろ[#「とろ」に傍点]の古いんでも撮《つま》みなすったか、あいつあよくねえ夢を見させやすからね。はっはっ。」が、おっ被せて仙太郎が色を失っている唇を不服そうに尖らせた。
「夢じゃありましねえ。」
「と言うと?」藤吉は思わずきっ[#「きっ」に傍点]となった。
「ああに、夢なら夢でも正夢《まさゆめ》でごぜえますだよ。旦那の身体がお前さま、置場の梁にぶら[#「ぶら」に傍点]下って。」
「だが、仙さん、お待ちなせえ。」
 と彦兵衛はいつになく口数が多かった。
「あっしが昨夜お店の前を通った時にゃあ、旦那は帳場傍の大火鉢に両手を翳《かざ》して戸外《そと》を見ていなすったが――。」
「止せやい。」
 と藤吉が噛んで吐き出すように言った。
「その顔に死相でも出ていたと言うんだろう。」
「ところが。」と彦兵衛も負けていなかった。
「死相どころか、無病息災《むびょうそくさい》長寿円満《ちょうじゅえんまん》――。」
「そこで。」
 と藤吉は彦兵衛のこの経文みたいな証言を無視して、こまかに肩を震わせている仙太郎へ向き直った。
「お届けはすみましたかい。」
 ごくり
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