のですよ。」
「それに、お前さん。」
 と藤吉は並んで歩みを運びながら、
「お関取りの足場にしちゃ、あの茶箱は少し弱すぎまさあね。」
「踏台から足がついたってね、どうだい、親分、この落ちは?」
 と彦兵衛が背後で笑声を立てた。
「笑いごっちゃねえ、間抜め、お取り込みを知らねえのか。」
 と藤吉は叱りつけた。そしてまた同伴《つれ》を顧みて、
「が、喜兵衛さん、ま、なんと言ってもあの綱の結び目が仙の野郎の運のつきとでも言うんでしょう。ありゃあ水神結びってね、早船乗りの舵子《かこ》が、三十五反を風にやるめえとするえれえいわく因縁のある糸玉《いとだま》だあね。あれを一眼見てあっしもははあ[#「ははあ」に傍点]と当りをつけやしたよ。仙は故里《くに》の石の巻で松前通いに乗ってたことがあると、いつか自身でしゃべっていたのを、ふっと、思い出したんで――。だがね、あれほど重量《めかた》のある仏を軽々と吊り下げたところから見ると、こりゃあ一人の仕業じゃあるめえとは察したものの、上布屋のことを聞き込むまでは、徳松一件もてえして重くは考えなかったのさ。ま、番頭さん、お悔みはまた後から――いずれ一張羅でも箪笥の
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