んてまた堅えたま[#「たま」に傍点]を拵えたもんだろう。」
 その時だった。
「解けねえか。よし、糸玉《たま》の上から切ってしまえ。」
 と、藤吉の言葉の終らない内に大きな音を立てて、箱が毀れると、痩せた彦兵衛の身体が火箸のように二人の足許へ転がり落ちた。思わず手を離した藤吉の鼻さきで、あたかも冷笑するかのように、縊死人の身体が小さく揺れた。箱の破片《こわれ》を手にしながら、異常に光る視線を藤吉は、今起き上って来た彦兵衛へ向けた。
「吹けば飛ぶような手前《てめえ》の重さで毀れる箱が、どうしてこの大男の足場になったろう。しかも呼吸が停まるまでにゃ、大分箱の上でじたばた[#「じたばた」に傍点]したはずだが――。」
「自滅じゃねえぜ、親分。」
 と言う彦兵衛を、
「やかましいやい。」
 ときめつけておいて藤吉は、
「今見たようなわけで、わしにはちっ[#「ちっ」に傍点]とばかし合点の行かねえところがある。旦那方が来ちゃ面倒だ。頭《かしら》、梯子を持って来て屍骸《しげえ》を下ろしておくんなせえ。なに、綱は上の方から引っ切ったってかまうもんか。それから、彦、なにを手前はぼやぼやしてやがる。この置場
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