人は奥で顫《ふる》えてでもいるとみえて、店には、他に小僧が一人と染めの職人が一人、土間の隅にしゃがんで何かひそひそ[#「ひそひそ」に傍点]話し合っているだけ。
「ま、御免なせえ。春早々縁起でもねえ物を背負い込まされて、とんだ災難でごぜえす。が、こちとらの訊くだけのこたあ底を割っておもらいしてえんだ。なあ、俺も不浄が稼業《しょうべえ》でね、根掘り葉掘り嫌なことを言い出すかも知れねえが、気に障《さえ》ねえでおくんなせえよ。乙に匿《かく》したり絡んだりされるてえと事あ面倒だ。一つ直に談合しようじゃごわせんか。」
腰を下した藤吉、それから硬く軟かく、表から裏から、四人の男を詮議してみたが、要するに無駄だった。四つの口は、首には全然覚えのないこと、昨夜はたしかに笊を挾んでおいたのが、今朝常吉に起されて見たらどこの何者とも知れない彼の首がかかっていた、したがって何がなにやらいっさい解せないとの一点張り、何ら探索の手懸りとも観るべきものは獲られなかった。
「悪戯《わるさ》じゃあるめえ。」遠いところを見るような眼で、独言のように藤吉は続ける。「一夜《ひとよ》さに、竹の先の笊目籠が生首に変った。ふうむ
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