後をかいて、
「桔梗屋さんと関係《かかりええ》があろうはずもねえし、どこの誰だか、からきし人別がつかねえ。もっともね、こう下から白眼《にら》めてるだけじゃあよく相好もわからねえが――」
「おうっ。」見物の遊人がまたしても茶利《ちゃり》を入れる。「おっ、誰かこの近辺に首を失くした者あねえかとよ。」
 じろり[#「じろり」に傍点]と藤吉が男を見やる。勘次が囁いた。
「親分、あの野郎、勘弁ならねえ。」
「まあま、ええってことよ。」藤吉は笑った。「それよりゃ桔梗屋だ、いや、この首だ。」と藤吉を振り返って、
「のう、晒《さら》してもおけめえ。常さん、下してやんな。功徳《くどく》になるぜ。勘、われも手伝え。」
「あい。」
 常吉と勘次、ただちに竹を外しにかかる。藤吉はずい[#「ずい」に傍点]と桔梗屋の店へ通った。

      二

 主人八郎兵衛と番頭、度を失って挨拶も忘れたものか、蒼褪《あおざ》めた顔色も空虚《うつろ》に端近の唐金《から》の手焙《てあぶ》りを心もち押し出したばかり――。
 女子ども、と言ったところで内儀は先年死んでお糸という独り娘、固いというもっぱらの噂、これと下女と飯焚婆の三
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