口鮮かな――男の生首だった。
甚八と常吉とがいっしょに口を開こうとした。言葉が衝突《ぶつか》って、双方、愕いて声を呑んだ。
周囲の群集は呼吸を凝らして、竹のうえの首と藤吉を交互《かたみ》に凝視《みつ》めている。がっしり[#「がっしり」に傍点]と腕組した藤吉が、音《ね》一つ立てずに薄眼を開いてぼんやり首を眺めていると、首は青竹に突き刺さって仔細あり気な顰《しか》めっ面、顔一面に血糊が凝《こ》って流れて灰色の雲低い空を背景《うしろ》に藤吉を見下ろしているところ、あまりに唐突と怪異が過ぎて、凄惨とか無残とかというよりも、場面に一脈の洒落気《しゃれけ》が加わり、そこには家なく町なく人もなく、あるのはただ首と藤吉とを一線に結ぶ禅味だけ、今にも首が大口あいて、わっはっは[#「わっはっは」に傍点]と咽喉の奥まで見せやしまいかと怪しまれる――。
押し潰したような静寂《しじま》。傘を打つ霙《みぞれ》。
と、つかつか[#「つかつか」に傍点]と進んだ藤吉、天水桶のこっちから腕を伸ばして竹を掴んだかと思うと、社前で鈴でも振るように二、三度揺すぶった。前屈み、左に傾《かし》いでいた生首が髪振り乱して合点
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