みまき》町、芝の片門町など方々にあったものだが、中でも老舗《しにせ》として立てられて商売も間口も手広くやっていたのが岡崎町も八丁堀二丁目へ寄った桔梗屋八郎兵衛、これは日頃藤吉も親しくしている家、合点小路から海老床へ抜けるとつい[#「つい」に傍点]眼の先だ。虫の報《しら》せか藤吉勘次、近づくにつれて自然と足の運びが早くなった。
通りへ出た。
と見る、桔梗屋の店頭、一団の群集《ひとだかり》が円陣を描いて申し合せたように軒の端《はし》を見上げている。出入りの鳶《とび》らしいのや店の者が家と往来を行きつ戻りつして、いかさま事ありげ――。
今は小走りに駈けながら、人々の視線を追ってその集まる一点へ眇《すがめ》を凝らした八丁堀、なにしろ府内に名だたる毎度の捕親《とりおや》だ、あらゆる妖異|変化《へんげ》に慣れきって愕くという情《こころ》を離れたはずなのが、この時ばかりはぎょっとした瞬間、前へ出る脚がいたずらに高く上って、親分藤吉、思わず一つ地面で足踏みした。
「勘の字、見ろ!」
「何ですい、ありゃあ?」
立ち停まった二人を眼智《めざと》く発見《みつ》けた海老床甚八とに[#「に」に傍点]組の
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