ってるんだ、合点長屋の藤吉だぞ。」
「よっく存じております。」
「存じていたら手数かけずと申し上げろっ。」
「しかし親分、そ、そりゃあ御無理というもの、まったく私は浦和のほうに――。」
「そうよ。」藤吉はにやり[#「にやり」に傍点]と笑って、「十日に浦和へ行って、四、五日前に帰って来た。」
「えっ!」
「土産物担いで帰って来た。がお店へはいらねえで、裏の空小屋へ忍び込んだ。」
「だ、誰が、ど、どうしてそんなことが!」
「まあさ、黙って聞けってことよ。用意の冷飯、梅干、鰹節を齧って、お前、小屋に寝起きしてたな。」
「――――」
「江戸にゃあいねえと見せかけて、これ、女仇敵《めがたき》を狙ってたな。」
「――――」
「店頭《みせさき》の紫殻から、こう、吾妻屋の香袋が出たぜ。」
「あっ!」
一声叫んだ弥吉、逃げられるだけは逃げるつもり、両手を振って躍り上った。が、かくあるべしと待っていた勘次、丸太ん棒のような腕を伸ばして襟髪取ってぐっ[#「ぐっ」に傍点]と押さえた大盤石、弥吉、元の土に尻餅を突いて、やにわにげらげら[#「げらげら」に傍点]笑い出した。
「どうだ。」覗き込んだ藤吉、「はっはっ
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